新しく家を建てる際に、二世帯住宅を計画する方もおられることでしょう。二世帯などの大家族は、暮らしがとても賑やかで、子どもたちの成長にも好影響を与えるとも言われています。
土地の購入をはじめとする資金問題などで二世帯住宅を検討する人も少なくないと思いますが、当然のことながら二世帯住宅は、親世帯(または子世帯)と同居することになります。あらかじめプライバシー確保の問題など、しっかりと「自分たちにとって何が譲れなくて、どんなことは一緒にできるか」などを整理整頓しておく必要があります。そうしなければ、結果としてどのような暮らしになるかは、あなたもきっと想像がつくことでしょう。
親世帯・子世帯ともに毎日、仲良く暮らせ、程よい距離感で接していける二世帯住宅を完成させるためには、今、二世帯住宅を取り巻く現状などを知ることも大切です。そこで「はじめて家を建てる」では、二世帯住宅が生まれた背景や、現在、主流となっているニーズ、さらには具体的な間取り例「快適間取り11のポイント」を用意し、工夫ポイントを解説していきます。
これを読めば、二世帯住宅のヒントが必ず掴めます。自分たちにとって最適な間取りや親子の距離感はどんなものなのか。参考例をベースに、家族で話し合ってみてください。
目次
二世帯同居は当たり前の時代から、お互いのメリットを求めて同居する時代へ
その昔、親世帯・子世帯が同居するのは当たり前でした。古いしきたりを持ち出すようで恐縮ですが、○○家に入れば、その実家で同じ一つ屋根の下で暮らすことが当たり前の時代があったのです。しかし、今は時代が変わりました。親子だから同居するのは当たり前、という時代から、親世帯・子世帯それぞれが、お互いのメリットを求めて同居する時代になってきているのです。
二世帯住宅が求められる背景
- 家族の考え方の変化や少子化による家族構成の変化
- 低経済成長の中、世帯主賃金が伸びないこと
- 世帯収入アップのため、または女性の社会進出による共働きの増加
- 特に震災後、家族への思いやり、絆を求める人が増加
- 昔とは違い、元気なシニア
- 親世帯、子世帯がお互いのメリットを求めて同居
- 親子で同居は当たり前の時代は終わり
二世帯で暮らすことのメリット
- 家事が頼める
- 孫(子)を共に教育できる
- 親の生活サポートができる
- 片方世帯が留守の時に用事が頼める
- 病気などのときも家族がそばにいて心強い
- 留守宅を心配することなく旅行ができる
- 親にはパソコンなどを、子には生活の知恵など、お互いに教え合える
- 土地や資金を助け合える
- 生活費の削減につながる
- 税金が有利になる場合がある
- 親子、孫の絆が深まる
- 親の時代の文化が伝えられる
- 親世帯の生活に張り合いが出る
このように、家族の人数が多いからこそのメリット、世代が違う者同士が暮らすことのメリットは、かなり多くあります。二世帯住宅を検討する方の多くが土地や資金の問題を掲げられると思いますが、こうしてみると土地や資金の問題が無くても、新しく家づくりを検討する中に、二世帯住宅という選択肢は十分にあると思います。
では次に、二世帯住宅における「同居スタイル」と、その特徴、そして先ほど概要を示した二世帯住宅が求められる背景について解説していきます。
積極的な同居スタイル「融合型」が増加している
二世帯住宅には、大きく分けて2つのスタイルがあります。それは「分離型」と「融合型」です。
※分離型二世帯住宅と融合型二世帯住宅の折衷案的な、キッチン・浴室は2つで、玄関は1つの「共用型二世帯住宅」もありますが、ここでは以下、2つのスタイルに分けて解説します。
分離型二世帯住宅の特徴
分離型の名の通り、すべての生活空間を完全に分けて暮らすスタイルです。玄関もキッチンも浴室も2つずつ。土地にゆとりがある場合を除き、多くの場合が上下階でセパレートします。玄関を2つにすることから、2階には外階段で。プライバシーの確保に優れていますが、世帯間の交流や協力をどのようにするかがポイントとなります。
融合型二世帯住宅の特徴
玄関、浴室を1つで共用し、キッチンは2つ(ただし、メインキッチンを共用し、サブキッチンを用意)にするスタイルです。食事などの空間も共用することで、世帯間のコミュニケーションや家事・育児の協力がしやすいことが特徴となります。セカンドリビングなど、世帯別にくつろぐ空間も用意しますが、共用部分が多いので、プライバシーの確保がポイントです。
二世帯住宅が求められる背景について
高度経済成長期後には、核家族化が進みましたが、バブル期に入り、二世帯住宅が急増します。これは土地の高騰によるもので、特に一次取得者層(はじめて家を購入する人)は土地購入を断念せざるを得ず、結果として“仕方なく親の土地に二世帯で同居する”パターンが多く見られました。そのため玄関や水まわりもすべて2つあり、2階へ上がるための外階段のある「分離型二世帯住宅」が主流となっていたのです。
しかし、ここ数年、特に震災以降は、その傾向に変化が起こっています。親の健康を考えたり、子育て・子どもの成長への好影響など、「家族の絆」を大切にする志向が強まったこと。また、経済の低成長による世帯主の賃金が伸びず、共働きとなる世帯が増加したことなどから、資金面はもちろん、家事や育児を親世帯に協力してもらうなどの同居のメリットを期待した、積極的な同居スタイルである「融合型二世帯住宅」が増加しています。
間取りをしっかりと工夫すれば、二世帯生活は快適になる
では、実際に二世帯住宅を検討・計画していくうえで、どのあたりに注意し、工夫すれば親・子世帯ともに快適に暮らせるのでしょうか。そんな疑問に答えるべく、具体的な間取りを示し、それぞれの工夫ポイントを解説することにしました。
ここでは玄関、キッチン、浴室などがすべて2つあるような「分離型」ではなく、無駄な設備は省き、キッチンや浴室は共同で使う積極的な同居スタイル、「融合型」に絞り解説していきます。
この記事を読んでいただければ、「融合型」でも、ちょっとした間取りの工夫によってストレスを無く暮らせることが分かるでしょう。
「融合型二世帯住宅」快適間取り11のポイント
想定した条件
- 家族構成:両親、娘夫婦、その子供2人(小学6年女児、小学3年男児)
- 食事:一緒につくり、一緒に食べる
- 仕事:娘夫婦は共働き
娘夫婦と暮らす「融合型二世帯住宅」の間取り事例
ポイントその1:【玄関】
接道が南、北、西の3パターンに対応可能な西入の玄関を採用しました。東や南は自然光がたっぷりと入るため、生活の中心になるダイニングやリビングのために活用しましょう。
ポイントその2:【リビング・ダイニング】
東南の陽当たりのいい場所にリビング・ダイニング、そして多目的に使える和室(畳コーナー)をレイアウトします。
リビング・ダイニングの考え方ですが、一般的な「リビングはくつろぐ場」「ダイニングは食事をする場」という分離したものではなく、ダイニングを中心に「食べ」「くつろぎ」「会話し」「勉強をする」、すべての場として活躍させる発想でプランニングしています。
大きなダイニングテーブルに、ゆったりとくつろげるダイニングソファーを合せます。子どもの宿題はダイニングで行い、親だけでなく、祖父母も気軽に目をかけてあげられる空間に仕立てます。このことで自然と親子の会話、祖父母と孫との触れ合いが生まれます。
ポイントその3:【キッチン】
キッチンは北面に配置していますが、今の家は基本的に気密性・断熱性が高いため、冬でもそんなに寒くなることはありません。また北東の位置に設けているのは、強い西日を避けるためでもあります。西日はどうしても室温を上げてしまいがちなので、食品が傷みやすくなります。そこで比較的、日の入りにくい北面に食品庫(パントリー)を設けているのです。その食品庫は、食材や大きなキッチン用品などが仕舞える便利な空間です。 キッチンは、ダイニング側にいる家族と会話ができるオープンタイプ。母と娘で同時に立っても狭くないゆとりを確保します。
ポイントその4:【和室(畳コーナー)】
畳コーナーは、普段、親世帯がくつろぐ居間として活用します。陽当たりもいいので、心地よく、健康的に過ごせることでしょう。この場所は、孫と遊んだり、洗濯物を畳んだりとフレキシブルに使えるのが特徴。小さなお子様の場合、お昼寝をさせるのにも最適ですし、キッチンからも見えるので安心です。来客時には、客間として利用することも可能な多目的な空間です。
ポイントその5:【洗面・浴室】
洗面と浴室は、脱衣所と洗面所をセパレートしました。これにより、誰かが入浴中であっても気兼ねなく洗面所が使えます。また、天井部分には吊り下げ式の室内物干し設備を用意。共働きの忙しい奥さまを応援します。
ポイントその6:【親・子世帯の寝室】
上下の生活音に配慮して、親世帯の寝室の上に、子世帯の寝室が来ないように配慮しています。また、それぞれの部屋に1坪分の収納を確保しました。
ポイントその7:【親世帯の多目的スペース】
まだまだ元気に毎日を過ごす両親のためのスペースです。今のシニアは趣味も多く、部屋の中で楽しむことも少なくありません。書斎としてはもちろん、アトリエのような空間にしてもよし。また、玄関に近い位置であることを利用して、茶室として茶会を催すなどといった風流な楽しみ方もできるでしょう。
ポイントその8:【子ども部屋】
子ども部屋は北面にレイアウト。実は北側は、自然光が一番安定しており、集中できる環境を生み出します。画家のアトリエが北側につくられているのは、そういう理由があるのです。
小学校低学年までは、ダイニングや和室で親、そして祖父母に見守られながら宿題や勉強をする。高学年になり、中学受験などを控えるようになれば、自室で集中して勉強をする。そんなお子さまの成長を考えた上でのレイアウトです。
ポイントその9:【セカンドリビング】
セカンドリビングは、主に両親や子どもが就寝した後に、夫婦がくつろぐ場。夫婦共有の書斎コーナーを設け、そこでは子どもの提出物を整理したり、持ち帰った仕事を片付けることができます。
ポイントその10:【2階の水まわり】
2階には子世帯専用のトイレと洗面所を設けます。子どもが成長するにつれ、朝の支度ラッシュは深刻化していきますので、そのための対処をはじめから計画しておきます。もちろん就寝前の歯磨きなどは、ここで済ませることもできます。
洗面台をミニキッチンにすれば、お茶やお酒、軽食などにも対応可能。夫婦の時間をより豊かにすることができます。
ポイントその11:【収納計画】
同居における不満要素のひとつが収納不足。それらを解消するために、玄関の土間収納、玄関クローク、居室ごとのクローゼット、食品庫(パントリー)を用意しています。 また月日を重ねるうちに増えがちな荷物や、季節の洋服・荷物を片付けるために、大容量のロフトスペースを計画しました。これがあれば、部屋が散らかり、狭く感じることもなくなるでしょう。
まとめ
いかがでしたか。参考になったでしょうか。 まとめとしては、
- 今の二世帯住宅は、家族の絆を深め、家事や育児も協力できる「融合型二世帯住宅」が主流となっている。
- 融合型二世帯住宅であっても、間取りを工夫すれば、親・子世帯とも程よくプライバシーを守りながら快適に暮らせる。
ここでのポイントは、たとえ二世帯住宅であっても、工夫次第でプライバシーも守れれば、家事協力も自然と促すことができるということです。しっかりと間取りを検討・計画し、住宅会社とも相談しながら進めていくといいでしょう。
ちなみにコラム
「ハウスメーカーと工務店のどちらに二世帯住宅を頼めばいい?」
こんな疑問を抱く人もいることでしょう。これは住宅会社選びの4つのステップでもお伝えしましたが、いろんな尺度があり、結果としてはあなたの志向で決めるべきことです。ただし、一般的に比較してみたとき、以下のような違いがあると思います。
【ハウスメーカー】
最新の市場調査、モニタリング、ユーザーインタビューなどから得たデータを分析・研究し、それらを商品開発にフィードバックしています。ですから、「今、求められていること」「これから求められること」などが家づくりに網羅されており、5年、10年、それ以降のライフスタイルの変化にもしっかりと対応した家づくりがなされます。よって長きにわたり、快適に暮らせることでしょう。【工務店】
工務店は地元密着型ですから、地域の風習や文化にも精通しています。地域によっては「こういう間取り、部屋が必ず必要」というところもまだまだ残されていますから、そういった“地域の常識”をあうんの呼吸で提案してくれるのはメリットです。また、その地域でどんな二世帯住宅が好まれているかなど、自社の施工実例を持っている会社なら示してくれ、参考にすることができるでしょう。