家づくりにおいて、当然「屋根」はつけられます。でも、当然すぎるのか、屋根に対してあまり意識を向けない人がとても多いよう。しかしながら、その形状はもちろん、用いる素材によって見た目も、機能性や耐久性にも大きな差が生まれるのです。中でも大きな影響を与えるのが、「屋根勾配」。今回は、この「屋根勾配」について勉強したいと思います。
目次
勾配は「寸」表記。その理由は、計算が簡単で作業がラクになるから
屋根勾配とは、屋根をつくる際の角度のこと。屋根の傾斜度合いを示すものです。屋根勾配を表わすときは、30度とか45度といった角度は使用しません。使用するのは「4寸勾配」とか「6寸勾配」といった寸表記。水平寸法10寸に対し、立ち上がり寸法がいくつなのかを表わした数字で表現されています。
水平距離10寸に対し、4寸の立ち上がりがある場合は「4寸勾配」。6寸の立ち上がりがあれば「6寸勾配」です。寸という値がどうしても頭に入らないのであれば、水平距離1mに対し、0.4m(40㎝)高くなるとイメージしてください。10分の4勾配と呼ぶこともあります。
ちなみに、なぜ角度を用いないのかというと、屋根を支える梁である棟木や母屋の取り付け高さは屋根勾配によって決まってくるため、寸勾配のほうが計算が簡単で、設計や現場作業が容易になるからです。たとえば4寸勾配屋根の3mの位置の高さを求める場合、3m×0.4=1.2mとラクに計算できますが、角度だとタンジェントを用いなければ算出できません。そんな理由があるのです。
長く暮らすうえで、屋根勾配がもたらす影響をきちんと理解しておく
では、勾配屋根について、そのメリットやデメリットを解説したいと思います。屋根の役目は、雨や雪、強い陽射しをしのぐこと。ですから屋根勾配の違いには、それなりの理由が存在するのです。そしてそこには一長一短が生まれます。屋根勾配は、以下のように区分されます。それぞれメリット・デメリットも併記します。
急勾配…6寸以上の勾配を持つ屋根
メリット
- 急勾配ゆえに雨水の滞留が少なく、雨漏りのリスクが少ない
- 雪が積もりにくい
- 汚れが流れやすいため、屋根の耐久性が高まる
- 屋根裏に空間が生まれ、断熱効果が高まる
- 屋根裏スペースを活用できる
- 屋根が高くなり、外観フォルムの見栄えが良くなる
- 外観デザインに洋風のイメージが生まれる(好みによりデメリットにもなる)
デメリット
- 屋根面積が広いので施工価格が高くなる
- メンテナンス時には足場が必要になるため、修理コストが高くなる
- 台風や風の影響を受けやすくなる
- 屋根高が高くなるため、北側の陽当たりが悪くなる
- 雪下ろし作業が困難になる
並勾配…3寸~5寸程度の勾配を持つ屋根
メリット
- 雨漏りがしにくい
- メンテナンス時に足場は必要なく、急勾配に比べてコストが低くなる
- ほとんどの屋根材が使用できる
デメリット
- 一般的に広く用いられる屋根勾配のため、個性が出しにくい
- 急勾配に比べて、耐久性が劣る
- 急勾配に比べて、断熱性に期待ができない
- 急勾配に比べて、屋根裏スペースの活用度が低くなる
緩勾配…3寸以下の勾配を持つ屋根
メリット
- 台風や風の影響を受けにくい
- 屋根面積が狭いので、メンテナンスコストが低くなる
- メンテナンス時に足場が必要ない
- 屋根での作業時の安全性が、急勾配、並勾配よりはるかに高い
- 落雪しにくいので、落雪による被害・危険性を抑えられる
デメリット
- 水の滞留が多くなり、雨漏りのリスクが増す
- 汚れやホコリたまりやすいため、劣化が早まる可能性がある
- 屋根裏が狭く、断熱効果が期待できない
- 使用できる屋根材が限定される
その他、屋根勾配の注意点
- 瓦を用いる場合は、4寸勾配以上
- スレート屋根は、3寸勾配以上
- 2寸勾配以下の場合は、防水性能の高いガルバリウム銅板葺きなど金属系にする必要がある
- 太陽光発電システムを採用する際は、屋根勾配に注意。パネルの角度で発電量に大きな差が出ることも
まとめ
屋根勾配によって、さまざまなメリット・デメリットがあることがお分かりいただけたと思います。それらを比較・検討した場合、一般的には「4寸勾配」を採用する家が多いようです。
しかし屋根勾配は、屋根の材質、地域の気候・気象条件によって決まるものでもあり、デザイン性(見た目)を考慮することも大切です。また、道路斜線や北側斜線などの法的制約も存在します。
メリット・デメリット、そして外観フォルムに対するこだわりをしっかりと整理して、パートナーとなる建築会社とじっくり話し合うことをおススメします。長く快適に暮らすために大事な要素である屋根勾配の検討を、ぜひお忘れなく