「平屋はおしゃれなデザインにできるから」という理由で、平屋に憧れを抱く人も少なくありません。平屋という漢字だけを見ると、日本家屋をイメージしてしまうかも知れませんが、たとえば現代建築の三大巨匠の一人であるミース・ファンデル・ローエは、素敵な平屋を数多くデザインしています。つまり平屋は“モダン建築”としても多くの作品が発表され、輝きを見せる住まいなのです。
有名建築家による平屋の作品群はどれも素晴らしく、デザインとして参考になるものばかりです。ですが、この記事ではそれらをご紹介するのではなく、1940年代末~70年代にアメリカで売り出された「アイクラー・ホーム」の魅力をお伝えしたいと思います。そのデザイン思想は、きっと参考になるはずです。
40年以上経っても素敵と思える、資産価値の高い本物のデザイン
アイクラー・ホームとは、Joseph Eichler(ジョセフ・アイクラー)を中心に宅地開発を行っていたデベロッパー(都市開発業者)であり、ハウスメーカーでもあった会社です。ビジネスパーソンとして成功を収めていたアイクラーは、ある時、フランク・ロイド・ライト(現代建築の三大巨匠の一人。もう一人はル・コルビジエ)が設計した家に暮らし始めます。そして、そのコンパクトで経済的、オープンな空間設計に感動。「誰もがこのような家に、安価で住むことが出来たなら」という思いに至るのです。
そこでアイクラーはアイクラー・ホームをつくりあげ、6人の建築家に協力を仰ぎます。その設計思想は、
- 平屋であること。
- 屋外と室内との境界があいまいであること(インドアー・アウトドアスタイル)。
- 公道など、パブリックな部分に対しては閉ざされている一方、プライベートエリアに対してはガラスを多用し、開かれた空間になっていること。
- アトリウムと呼ばれる中庭があること。
- 幾何学的なラインの採用。
- アースカラーの外壁に対し、エントランスドアは色味を持たせること。
写真を見ていただければ外に閉ざし、内に広げる設計思想が見て取れると思います。内観写真は現状、編集部では手に入れることができないため、詳しくは専門書籍などを見ていただくしかありません。ただ、とても開放的で心地よく、伸びやかさ、そして自然の豊かさを感じることが出来る空間設計となっており、平屋の特徴や利点を巧みに生かした空間設計が魅力となっています。
まさにミッド・センチュリーモダンデザインが謳歌した時代に生まれた住宅で、当時は建売住宅でした。前述のように安価に提供されたようですが、人気が人気を呼び、今では市やファンである施主によって保護される文化財的な家になっています。40年以上経った今では、当時では考えられないほどの高値で取引されているそうです。
ここで注目したいのは、素敵なデザイン思想によってつくられた家は、どの時代になってもファンが付き、価値ある住まいとして受け継がれていくと言うことです。資産価値の高い家を手にするためにも、ぜひ本物のデザイン、設計をアイクラー・ホームからも学び、自らの家づくりに生かしてみてはいかがでしょう。