机上の理論より、現場のリアルが面白い/ヘーベルハウス

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常識がくつがえされるところに、商品開発の種がある

旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)くらしノベーション研究所 二世帯住宅研究所長の松本吉彦さん。1983年に入社後、工事部門を経て10年間を設計部門で過ごし、二世帯住宅を多数担当。「最初の頃は、各世帯の要望を整理し、双方に納得してもらえるレベルに間取りを調整し、設計するのが大変でした」。1階親世帯、2階子世帯と住み分ける場合、各世帯の要望のバランスをとる必要があり「あちらを立てればこちらが立たずで、せめぎ合いに苦労した記憶がありますね」。

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旭化成ホームズ(ヘーベルハウス) 松本 吉彦さん
業界では「二世帯住宅と言えば松本さん」と言われるほどの豊富な知見をもつ。二世帯関連書籍だけではなく、防犯研究での執筆も多数

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現在は、二世帯の研究と商品開発に従事。「机上の理論より、現場のリアルが圧倒的に面白い」と言います。実際に住んでいる家に伺って話を聞く“訪問調査”が、研究職として最もエキサイティングな時間だとか。「家づくりでの常識だと思っていたことがくつがえされるとき。建前の裏側の本音がぽろりと見えたとき。そこに、商品開発の種があるんですね」。

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訪問調査時に使うスケールやデジタルカメラ、アンケート結果の分析に使う関数電卓や多色ボールペンなどが仕事の相棒


徹底したフィールドワークから、次のヒントを探り出す

2010年に発売した子育て二世帯住宅『i_co_i(イコイ)』も、訪問調査の中で気づいたことがヒントになり、商品化されたものだそう。「親世帯に孫の勉強道具が置いてあったり、孫の物をしまう専用の引き出しがあったり。そこで、おや?と気づくわけです」。

子世帯が共働きで妻がフルタイム勤務の場合は、子ども(孫)の方が先に帰宅します。そんなとき、子どもは親世帯のLDで宿題をしたり、遊んだりしている姿が見えてきました。孫の持ち物も一旦親世帯に置くことになり、おきっぱなしになった物を祖父母が孫の部屋まで運ぶのも日常茶飯事であることがわかってきました。「つまり、各世帯のスペースが独立していても、相手のスペースに頻繁に出入りしているのです。そういうことは、今までの二世帯の設計では考えられていませんでした」。

そこから、親世帯・子世帯が子どもを共に育てる“孫共育”をキーワードにした商品『i_co_i(イコイ)』が誕生しました。「孫が勉強するスペースは子世帯だけでなく親世帯にもつくる、孫用のロッカーを共用部に設ける、祖父母が行き来しやすいように孫の部屋を親世帯から近い場所に置く、などの提案を盛り込みました」。

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収納付きのタタミコーナーで、孫と過ごす時間を楽しみつつ、室内が散らかる悩みを解決。 訪問調査での実感から生まれた空間提案(『i_co_i(イコイ)』)

同社のオリジナル収納システムも、訪問調査で収納の実態を綿密にリサーチする中から生まれました。「“だしっぱなし、おきっぱなし調査”をやったんです。その結果“かけっぱなし”というものがあることも分かりました(笑)」。典型的なのが、子どもがリビングで制服を着替えて、そのままソファにかけっぱなしにするというパターン。確かに、よくある光景かもしれません…。

「収納の内部はもちろんですが、むしろ入りきらずにあふれている物を見たいのです。つまりそれは、行き場がないということで、家づくりの課題ですから」。毎日飲む薬が食卓にだしっぱなしになっている、まとめ買いしたビールの箱がキッチンの床におきっぱなしになっている、などなど。「そういう生々しい光景を見ると、嬉しくなるんですよね。これこそ生活のリアル。そこに、改善のためのヒント、商品開発の種があるんです」。

ちなみに訪問調査では、収納の内部など普通は人に見せたくないような場所も、なぜか松本さんには見せてくれるお客様が多いそう。やはり、長年のキャリアのなせる技?「この風貌が…ヒゲの効力だと社内では言われています(笑)」。 最後に、この仕事をやっていてよかったと思う瞬間は?「マイホームを建てて、家で過ごす時間が楽しくなった、家にいる時間が増えたという声を聞くと嬉しくなります。“家が人を幸せにする力”を信じていますから」。

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