
狭小、変形、隣家が迫っているetc.・・・そんな都市部の敷地でも、プランニング次第で住みやすい家をつくることが可能です。都会の便利な暮らしと快適な住み心地、両方をあきらめずに済む方法を、ハウスメーカーの皆さんに聞いてみました。
旭化成ホームズ(へーベルハウス) 西野 功市郎さん
注文住宅の設計に10数年携わったのち、商品企画の仕事へ。主に、邸宅、都市部の3階建てや賃貸併用住宅などの商品企画を行っている。「休みの日も住宅建築を見に出かけたりしています」
大和ハウス工業 木寺 智香子さん
3階建て商品の標準詳細図を作成する仕事に従事。「外壁の断面など、専門家以外は目にすることがないマニアックな図面です(笑)」。ほかに、賃貸併用住宅の企画にも関わる
ヤマダホームズ 中村 晃さん
入社以来、注文住宅の設計一筋。「京都出身なので町家を数多く見ています。隣の家同士で中庭を共有し、採光とコミュニケーションの場にするなど、知恵と工夫の宝庫だと感じます」
目次
都市部の住まい。光と風をどう取り込むか
都市部の家の悩みの筆頭に挙げられるのが、採光と通風。広い庭に面した大きな窓や、視線を気にせず開けられる窓をつくるのは、ちょっと難しそうです。街なかに住みながら、日差しや風通しを得るには、どうすればよいのでしょう。ハウスメーカー各社に、プランニングのアイデアを聞いてみました。
旭化成ホームズの西野さんは「隣家が迫っていても、光が入ってくる場所は必ずあります。それをとらえることが大事ですね」と語ります。「たとえば“天空光”といわれる、上からの光を取り込む方法があります。高窓や天窓を設置して、光を壁面に反射させることで空間を明るくできます」。また、隣の建物の外壁が白っぽい場合は、反射光が期待できるとか。写真撮影のときのレフ板と同じ理屈ですね。
大和ハウス工業の木寺さんからは「奥行きのあるバルコニーをつくり、庭の代わりにするというアイデアがあります」。外部空間は、光や風、自然を感じられる貴重なスペース。高めの腰壁をめぐらせれば、隣家の視線をカットできます。「床や壁のトーンを室内とそろえて一体感を出し、部屋の一部のように見せるのもポイント。アウトドアリビングとして活用すれば、日々の暮らしに潤いが生まれると思います」。
「上下の抜けをつくることも大事ですね」と、ヤマダホームズの中村さん。吹抜けや、天窓のある階段などは、光だけでなく風の動きもつくりだします。また、間口が狭く細長い敷地の場合、中庭を設けることで建物奥に光と風を取り込むことが可能だとか。「本当は部屋を一つつくりたいところですが、あえて中庭をつくることで、空間の広がり感や心地よさが得られるんです」。京都の町家が好例ですね。
まだまだある、光と風、自然を取り込むアイデア
都市部の家では、窓の形や種類を上手に選ぶことも大事。細長いスリット状、小さな正方形や丸型などの窓は、外観のアクセントに用いつつ、採光・通風を得ることができます。ポイントは、視線をさえぎりつつ、採光・通風が可能なものを選ぶこと。曇りガラスを使うのも有効です。また、人が入れないような形状のものは、通風のために開けていても防犯面で安心ですね。ヤマダホームズの中村さんによれば「敷地の風向きを考慮して、効果的な位置に窓を配置しましょう。東と西、南と北など二面に窓があると風が抜けやすくなります」とのこと。
室内の風通しや明るさのために、「壁の一部を格子にする、ドアの上に欄間を設ける、開け放しておける引き戸を採用する、などの工夫もおすすめです」と、旭化成ホームズの西野さん。
大和ハウス工業の木寺さんからは、「もし、幸いにして目の前に公園などがあったら“借景”というやりかたもあります」というアドバイスも。自分の庭でなくても、窓から緑を望めるだけで心が安らぎますね。屋上をつくって家庭菜園、壁面緑化用のワイヤーにつる植物を這わせて、緑のスクリーンをつくるという方法もあります。
都市型住宅を建てるなら“発想の転換”を
絶対的な広さが足りない都市部の敷地は、通常の発想では間取りづくりがうまくいかないことも。いわゆる「nLDKの家」という発想から離れたほうがいいでしょう、とはハウスメーカーの皆さんからのアドバイスです。
たとえば、子ども部屋=6畳という固定概念もいったん外してみる。「限られた敷地なら、LDKなど家族が集まる場所を充実させることをおすすめしています」と、旭化成ホームズの西野さん。子ども部屋は3畳程度にしてベッドとクロゼットのみ、勉強や遊びはリビングダイニングで、というようにメリハリをつけることが大事だといいます。
「バリアフリーの観点から、段差を避ける傾向が続いていましたが、最近はあえてフロア内に段差を設けるというプランも出ています」と、ヤマダホームズの中村さん。天井・床の高さの変化とそれにともなう視線のずれが、空間をより立体的に感じさせ、フラットなフロアよりも広さを感じる効果があるのだとか。ガレージの天井を下げて、その部分だけ2階のフロアを下げるなど、さまざまな方法があります。
また、敷地に余裕がない場合、収納に割くスペースも限られてきます。そこで必要になるのが、モノを思い切って減らす覚悟。新居建築を機に不要なモノを処分すれば、家の中も片付けやすくなります。その上で、収納スペースをうまく確保して、すっきりとした住まいを目指しましょう。「狭い中での収納場所の確保は、設計の腕の見せどころ。ちょっとしたすき間も利用して、効率よくしまえる収納を提案してくれるはずです」と大和ハウス工業の木寺さん。
街なかに家を建てると、こんないいことがある
厳しい条件の中で、知恵を絞って建てる都市型住宅。でも、大変なことばかりではありません。街なかの家ならではのメリットもあります。
たとえば、都市型住宅に避けられない“狭さ”は、逆にいえば、家の中で常に家族の気配を感じられるということ。必然的に動線が短くなりますから、その分、家事も効率的にこなせるといえますね。
また、街なかならではのコミュニティーも魅力。多くの人が行き交う場所なら、シンボルツリーを植えて、自然に人が集まるスペースにしても面白そうです。「私が手がけた施工例で、1階に趣味の仲間が出入りできる部屋を設けたことがあります。交流の場になるような家が増えると、街自体が活性化する効果も期待できます」と、ヤマダホームズの中村さん。
都市部の場合、賃貸併用住宅という選択もあります。「家賃を住宅ローン返済に充当できる、眺めのいい2階・3階を住まいにできる、子どもが結婚したら賃貸部分に住まわせることができる、などのメリットがあります」と、旭化成ホームズの西野さん。
「賃貸部分があれば、自宅を留守にしたときも人の出入りがあり、防犯面で安心というメリットも。今は、いかにも賃貸併用という感じではなく、普通の一戸建てに近い外観のものも増えています」と、大和ハウス工業の木寺さん。
地価の高い都市部の敷地は、できるだけ有効活用したいもの。容積率が高い敷地ならばなおのこと、賃貸併用住宅を検討してみることもおすすめします。
まとめ
ポイント!こんな見方をしてみよう
- 厳しい敷地条件でも、採光・通風を得る方法はたくさんある
- 間取りづくりは「nLDK」という発想から離れてみる
- 都市部にすむメリットを意識して家づくりに臨もう